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神戸地方裁判所竜野支部 昭和30年(ワ)52号 判決

原告

松本清

被告

高田正夫

主文

被告は原告に対し金五万円及びこれに対する昭和三十年八月二十五日より完済まで年五分の割合による金員を支払うべし

原告その余の請求を棄却する

訴訟費用はこれを八分しその一を被告の負担とし他を原告の負担とする

本判決は原告勝訴部分に限り原告において金一万円の担保を供するときは仮りに執行することができる

事実

(省略)

理由

よつて案ずるに証人松本のぶ子、同中田辰一、同松本清治の各証言及び原告本人の供述並びに弁論の全趣旨によれば原告には先妻があつたがこれと離別した上原告は昭和十年頃訴外松本のぶ子と婚姻しその間に四人の子を設け二十年位その間特に夫婦喧嘩をしたという程のこともなく普通の夫婦仲でその所有の農地八反位と三畝余の山林とで農業をいとなみかたがた下駄等の修繕をしてさきには隣保長もしたことがあつてその老母や妻子と共に月平均計一万余円位の収入を得て居村部落内では中流位の生活をして来たところ被告は昭和二十八年八月二十八日原告の当時の妻たりし右訴外のぶ子(当時四十才位)をその人妻たることを知つて原告主張のように強姦したがもとより右訴外のぶ子において貞操観念の薄い女というわけではなくむしろその観念は強い方であつたこと、被告がその后その隣人に面白半分に右の事実を漠然と洩したことから昭和三十年になつてからは誰か人妻が強姦せられたそうだという噂が原告居住部落内に立ちはじめ原告が同年七月末右きよ子より前示強姦の事実の告白を受けはじめてこれを知り翌月二日には右のぶ子と離婚してこれを原告家から追い出してしまつたのであるがその前頃には右人妻は原告の妻であつたとの噂も右部落中に広がり出していたこと及び原告が右強姦の事実を知つて被告の右仕打に憤激し被告に被告が原告の妻を犯したものであることを卒直に認めて謝罪するよう談判したのに被告が右事実を卒直には認めようとせず唯重々悪かつたということを繰り返えすに過ぎず原告は右強姦の事実を知るや被告を告訴したが該強姦事件はその発生后日を経ているとのことでそのままになつているという以上一連の事実を推断するに足り証人根本のぶゑ、同楳村ふみ子の各証言中右認定に反する部分はたやすく措信し難い。

はたして然らば被告は原告の夫権を侵害しその名誉を毀損したものというべく被告は原告に右損害の賠償をなすべきところ右額は前段認定せる諸般の事実下において金五万円をもつて相当と思料する(なお原告は右損害のほか有形的損害の賠償を求めるようであり証人松本のぶ子の証言には右損害もあることが推認せられるがその額を確定すべき証左がないから遂にこれを認め難い)

よつて原告の本訴請求は右金五万円とこれに対する本件訴状が被告に送達せられた日の翌日たること当裁判所に顕著なる昭和三十年八月二十五日より完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分のみ正当として認容すべきも他は失当として棄却すべきものとし民事訴訟法第八十九条、第九十二条本文、第百九十六条第一、三項により主文のとおり判決する。

(裁判官 勝本朝男)

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